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「オンボロ」の魅力

  • 執筆者の写真: Tak Yama
    Tak Yama
  • 2024年5月24日
  • 読了時間: 4分

 私や稲荷は、時折古いものを宝物のように扱うことがある。私たち以外にも、世界には「アンティーク」や「骨董品」などと言って昔のものをありえないほど重宝していたりするものだ。これは一部の人からすると、はっきり言って理解しがたい現象かもしれない。新しいもののほうが便利で、長持ちし、コスパもよく、欠点が修正されているからである。しかし、「オンボロ」にも長所はある。機能的に敵わずとも、私たちの心をつかむ何かを持っている。それを少し語っていきたいと思う。

 まず古いものといっても結構な幅がある。例えば初代iPhoneは、2007年に誕生した。これでも十分古いと思う方もいるだろう。例えば今私が追い求めているスピーカーやヘッドホンは、1970~1990年代のものが多い。50歳のスピーカーなど往年だ。例えばシトロエン2CVや初代シボレーコルベット・スティングレイといった名車は1950,60年代などだ。また一世紀以上前に製造されたものを「アンティーク」とラベル付けすることもあるし、楽器や絵画においては数百年前のものが数十億というのも珍しくない。これ以上前のものになると歴史的・学術的な価値が物の価値を占めてくるので、本旨に逸れるため割愛するが、裏を返せばさほど古すぎない、「オンボロ」にも価値があるものが多いのだ。

 じゃあなぜ、これらは私たちを魅了するのか。これには様々な観点があると思うが、一番よく言われるのは「歴史的観点からみた斬新さ」である。有名なところで言えばピカソの平面的な絵は今までの写実的な絵から幾何学化、キュビズムを新たに生み出した、世界の絵の傾向をがらりと変えたターニングポイントとしての価値が非常に評価されたというものがある。このように、前代未聞のものや今までの商品の穴をついたものには、一般的に価値を見出す人が多い。これも学術的な価値といえばそうだが、それよりもそのアイデアへの評価や尊敬などの意が込められ、ファンが付くことが多い。この価値は言うなれば「アイデアへの価値」で、これは古さや貴重度に関わらず、その斬新さを評価されている。

 また、アイデアではなく、そのころの技術を惜しまずに投入して制作されたものにも価値が生まれる。それこそ車のようなものは、今と昔では性能に天と地ほどの差があることは明らかだが、例えばメルセデス・ベンツSSKといった車は1920年代の車であるのにかかわらず最高速200㎞/h以上を発揮する。そのつくりの良さや努力への称賛といった意味の価値が付与されるわけだ。つまりこれは「努力への価値」というようなものだ。

 しかし、私が一番に言いたいのは、その「美しさへの価値」である。美しさとは人によって異なり、時代によって異なり、宗派によって異なり、年齢によって異なり、まあとにかく定められたものなどないのだが、そのアンティークは多くの人々を魅了してきたものだ。それに、例えば車のような、建築のようなものだとその美しさは現代では到底再現できないものがあるのだ。現代の技術では再現できない「オーパーツ」のような話ではない。それは、現代の数多くの規制によって再現が不可能になっているものだ。例えば、トヨタの名車と言われると多くの車好きが「2000GT」という車種を思い浮かべる。今の技術でこれを作るのは簡単だが、安全性がこれを許さない。この車が販売された時、自動ブレーキやエアバッグは発明すらされていないだろうし、それに準ずる法律など存在するわけがなかった。それにシートベルトの義務化の法律ですら平成20年前後、私たちが生まれてから可決された法律である。1970年代の車を今作ろうとすると、例えば歩行者衝突時の歩行者の安全を確保するためにエンジンとボンネットにある程度空間、つまり厚みを持たせて緩衝材としての何かが必要になる。すると200GTのような鋭い流線型のフロントは非常に再現が厳しくなる。これはほんの例に過ぎないが、それ以外にも様々な制約が重なり、現代に2000GTをそっくりそのまま再現するとしたら誰も買えないほどのコストがかかる。また、たとえ日本でそれが売られたとして、忙しい現代の人間が買うほどのインセンティブにはならないようだ。

 そのころだからこそ生まれた美しさは、現代の華美で合理的なものではない。だからこそ、私たちはそれを愛してやまない。その歴史的、学問的な価値を抜きにしても、何十年と現役を退くことなく常に輝いていた彼らには、まるでハリソン・フォードのような、無二な価値であったり、まるで革靴のような、個人に寄り添うしなやかさであったり、また2000GTのようなそのころだからこその美しさがあり、私たちの生活を豊かにしてくれている。


 ちなみに、私がよく古いと言っているDiorの万年筆であったり、B&Oのスピーカーであったりはその界隈の方からすると新しいもののようだ。ホンモノの方々は恐ろしいものだ。

 
 
 

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