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常識知らず

  • 執筆者の写真: Tak Yama
    Tak Yama
  • 2024年3月6日
  • 読了時間: 4分

 「井の中の蛙大海を知らず」という言葉がある。一般的にネガティブな意味だと思ってよいだろう。特にインターネットが情報のソースとして一般化してからは、利用者の動向から好みを統計的に分析し、フィードとして目の前に出してくれるので、我々は自分が知りたい分野についての知識を自動的に手に入れることができる。これを頭の良い大人たちは「狭い価値観にとらわれた偏った人間を生み出す」といって問題視している。まさに井の中の蛙、大量発生中といっていいだろう。

 ただ、このことわざに「されど空の青さを知る」といった後付けがされるあたり、どうやら悪いことばかりではないように見える。今求められている人材として、何かに特化した専門型がよく言われているのも相まって、井の中の蛙もただ悪いものではないようだ。1分にも満たない縦長の動画をなん十本も見るよりも、自分が知りたい分野の最新情報を見ていることは周りから見ても何か高尚なことをしているように見えるだろう。

 私はこのような知識の偏りが、良いものであるのか悪いものであるのかという判断はいまだ出来ていない。専門家が何か発見しなければ助からない命もあるだろうし、総合的に判断できたから避けられた事故もまた無数にあるだろう。何より私たちが生きる世ではどうやら多様性が尊重されるようだし、どちらも尊いものであるという言い方が"無難"であり、今時点での正解だと思う。


 ただ、私は「蛙」に関して、一つ思うことがある。専門的なものばかりを見すぎて、常識を失った人間が生まれるのではないか、という懸念である。専門的なこと、といえども、何も哲学やら物理学やらといったものだけではない。例えばそう、「勉強」ということだけをしている人であったり、そういうことだ。大谷翔平を例に出されては敵わないが、少なくとも社会で生きていくのに十数年前まで当たり前の知識としてあったものが、我々の世代では知っていて損はない、程度に必要度が下がっているのは、生きやすいと喜んでしまえばそれまでではあるが、果たして常識と呼ばれていたものを知らずに頭でっかちの状態で社会に出て、世の中で役立つものを生み出せるのだろうか。

 これはたとえ話なのだが、「日本の大学進学率」を知らない人が東大に行き、エリート官僚を目指し文科省に務め、さて日本の学力を底上げしようとしたときに、彼の頭の中で学力の基準とするのは彼の環境そのものだろう。もしかすると彼は日本では大学進学は当たり前だと考え、大学に入ってからの教育にのみ目がいくような、まったくもって盲目な案を打ち出す無能な官僚になってしまうのかもしれない。その実日本の大学進学率は6割弱であり、日本全体の学力ではなく日本の"上位"6割をさらに育て、差を広げる結果しか生まない。専門書を読み漁って論文を書く彼らが、これからの日本を背負っていくとは、よほど日本は机上にある国なのだろうか。


 日本を劣、北欧を優と定めるつもりは毛頭ないが、私が現在通っている学校はよほど社会が見えた生徒を育てる施設であると思う。理系学校ではあり、科学系の授業が多いのはもちろんだが、その科学とは実生活に存在する科学を土台に組み立てられたラボで授業を受けることができる。日本の進学校の授業によくある、教科書を積んでつくった大学入試までのトンネルとも、授業といいつつ時間をつぶすために先生がひたすら黒板に話しかける作業とも違う、非常に新鮮な知恵としての科学を私たちに提供してくれる。これは、専門学校ではあっても蛙養成学校ではない、非常に「社会」人を育てる機関であることは断言できる。

 日本でそれを学ぶことは不可能ではない。先進国であることには違いないし、さまざまなチャンスをつかむことができる。ただ、多くは大学生~社会人を対象としているように見えてしまう。私が無知なのだとしたら、現役の高校生が情報を仕入れにくいのは逆に問題点ともいえよう。いずれにしろ、日本では社会を学ぶのは社会人になってからであり、ある程度の若者は社会人になる以前に社会を含めた新しいものを学ぶ意欲を失っていたり、理論や練習問題で頭が満たされた状態で社会に出るというのだ。私が果てしなく残念に思うのも理解できるのではないだろうか。


 私の留学は文化交流を目的としたものだが、文化というのは伝統だけではない。教育や社会も、立派な現代文化の一つだ。

 私は今、井桁の上にいるような気持ちである。遠くに海も見えるし、井戸の深さもまた知ることができる。空はさらにひろがった。早く水に浸からなければ干からびるかもしれないが、今は広がった目の前にただ混乱するのみだ。

 井戸の中を目指すのもよし。大海を目指すもよし。大人たちがさまざまなところに水路を引いてくれたおかげで、井の中の蛙も今や、いつでも出られるのだ。常識を知らなければ、知ってからでも井の中にのんびり浸かることは出来る。若いうちしか、今しかと、急いで井の中に深く潜るのは、いささかせっかちすぎやしないだろうか。

 
 
 

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